隊員の疲労回復を主な目的として宿営地などの後方地域で展開させる需品科部隊の可搬式入浴装置です。近年では震災などの災害派遣時に被災地で開設される臨時お風呂設備として活躍する機会も増えています。
トレーラーに搭載されたボイラー、揚水ポンプ、発電機などを3t半トラックや大型トラックで牽引。展開する地域まで移動して屋外浴場を開設します。
装置の性能として"一度に約30名"までが入浴可能。"1日では約1200名"が利用可能となっています。これほどの人数が使用すると衛生面などが気になるかもしれませんが、浴槽内のお湯はフィルター付きのポンプと繋がり循環式のため常に清潔が保たれる様になっています。
新潟県中越沖地震の際には入浴セットが足らないこともあり急遽、民生品も使われましたが、野外入浴セットと同じ人数を入浴させられる耐久性はありませんでした。ボイラーやポンプがそのままの無骨なデザインですが、単純な作りの自衛隊装備の方が耐久性やメンテンナンス性は高いです。
海外ではお湯の入った浴槽に浸かる文化が少ないこともあり、入浴セットは日本特有の装備であるともいえます。
入浴セットの運用
実際に入浴セットを展開すると2部屋に仕切られたテント(天幕)が設置されます。天幕入り口を抜けると脱衣所。その奥の部屋中央に浴槽。壁側に蛇口やシャワー付きのある洗い場が設置されます。
隊員のみが使用する訓練時などの場合には、短時間で効率的に入浴させるため脱衣所は簡易的な作りになります。一般の人たちが使用する災害派遣時には棚や脱衣カゴなどが置かれて使いやすい工夫がされています。
特に女性の脱衣所には化粧台やベンチ、ドライヤーまで設置している場合もあります。また冬場にはヒーター、夏場は扇風機など、その場その時の状況でも設備が変わります。
気遣いという点では、浴槽は大人が腰を落として肩まで浸かれる深さがあり、乗り越えて入浴するのがけっこう大変です。なので浴槽に入りやすくするため踏み台を設置してくれます。
創立記念行事などの駐屯地一般開放や実際の災害派遣時にも見ることができますが、天幕入り口には各地域の後方支援連隊特有の「のれん」や「のぼり」が設置されます。それぞれの部隊がデザインした地域性を感じられるものになっています。
その駐屯地一般開放時に入浴セットが展開されていると足湯体験ができる場合があります。また需品学校のある松戸駐屯地では年に2回のペースで隊員教育の一環として"全身入浴ができる無料入浴体験"も行われています。
東日本大震災、熊本地震では各地域から入浴セットを持つ部隊が応援に駆けつけて活躍しました。PKOなど海外派遣での国際支援活動にも使用されています。
師団や旅団の後方支援連隊補給隊、松戸駐屯地の需品学校需品教導隊などに対して1個セットが配備されています。
海上自衛隊も「緊急展開型入浴セット」として簡易的な浴場装置を持っています。