40mm自走高射機関砲M42、37mm自走高射機関砲M15A1の後継として1978年から開発が始められ、1987年に制式採用された自走式対空機関砲です。
機甲科部隊に同行して敵航空機から戦車などを守る目的で使用されます。随伴行動できる自走対空砲は低空飛行で侵入してくる戦闘ヘリなどに対して、後方展開する近・短距離地対空誘導弾よりも即応対処能力に優れています。
87式自走高射機関砲は牽引式対空砲として配備されていた35mm二連装高射機関砲L90に装甲を施して、それを装軌式(キャタピラ)の車体に載せた作りになっています。搭載火砲もL90と同系統のエリコン社製の35mm機関砲が搭載されています。ですがL90が高射機関砲2基、射撃統制装置1基、光学目標指定機1基、電源車3両を1システムとして運用されていたことを考えれば、展開時間等も含めてかなりの省力化が行われています。
車体構造
87式自走高射機関砲の構造として、車体は74式戦車をベースに作られています。エンジンも三菱製の空冷10気筒10ZF22WTで油気圧サスペンションなどもそのままに74式戦車のパワーと機動性を継承しています。
車体前部左側に操縦手席があり、その右側には搭載コンピュータに電力を供給するための発電機が備わります。この車体にアルミ合金製の砲塔が搭載され、砲塔内部に射撃手、車長が乗り込みます。砲塔左右両側面に主武装として90口径35mm機関砲(エリコンKDA)を2門搭載しています。また砲塔後部には起倒式の索敵・追随レーダー、射撃統制装置を装備しています。
索敵・追随レーダーや機関砲はコンピューターと連動していて、目標の発見、捕捉、射撃、補正までをリアルタイムで行えます。もし敵補足時にECMなどの電子妨害を受けた場合でも、搭載された赤外線暗視装置や光学センサーなどによる照準射撃で対処可能です。
目標対処能力
35mm機関砲から撃ち出される砲弾は敵航空機への直撃弾のみで、目標直前で炸裂する近接信管弾などはありません。これは耐弾構造になっている戦闘ヘリコプターの装甲を貫いて撃破することをコンセプトにしているためです。
機関砲が搭載される砲塔は全周囲に旋回し、機関砲自体も水平状態から"-5~85度までの俯角(ふかく)"で稼働します。この柔軟な可動域のおかげで対空戦闘はもちろん、地上装甲車両に対しても水平射撃で迎え撃つことができます。ちなみに87式自走高射機関砲の対空射撃訓練が行えるのは、国内で唯一、北海道にある静内対空射撃場のみで、東富士演習場で一般公開もされる富士総合火力演習でも水平状態での射撃しか実施ができません。
近年、航空機等の迎撃には誘導弾(ミサイル)による対処が主流で、陸上自衛隊でも87式自走高射機関砲以外の高射装備は11式短距離地対空誘導弾や93式近距離地対空誘導弾などの車載式ミサイル発射機です。自走機関砲の様に砲弾を発射する対空火器は珍しくなってきています。
そんな戦車の様な見た目から"ガンタンク"とも呼ばれたりもする人気のある装備ですが、1両の調達価格が約15億円と非常に高額なため、2004年までに52両の調達に留まっています。
87式自走高射機関砲の配備地域は限定的で、実戦部隊としては北部方面隊(北海道)の第7師団 第7高射特科連隊(静内)、第2師団 第2高射特科大隊(旭川)のみに配備されています。
北海道以外では本州の各学校に教育用として配備され、富士学校(富士駐屯地)、武器学校(土浦駐屯地)、高射学校(下志津駐屯地)で見ることができます。