陸上自衛隊には配備されるまで本格的な歩兵戦闘車(IFV)と呼ばれる、強力な火力を持ちながら隊員を輸送できる装甲車両はありませんでした。
そのため新たにIFVを装備化するために1980年から開発が開始された後、1989年に制式化されました。
IFVとは「Infantry Fighting Vehicle=歩兵戦闘車」の事で、砲弾片や小銃弾から身を守り隊員を輸送するための装甲兵員輸送車(APC)とは異なりロシアのBMP-1やアメリカのM2ブラッドレーの様な、輸送と火力支援能力を併せ持っている車両になります。
乗員は3名で車長・操縦手・砲手が1名ずつ乗車し、砲塔右側に車長、左側に砲手、車体右側前部に操縦手が搭乗します。後部の乗員室には6名の武装した隊員を乗り込ませることができ、後部乗員室と合わせて操縦手後方に1名分の座席も設けられています。
車体構造
車両の構造として、装軌式(キャタピラ式)の車体に全周旋回式砲塔が搭載され、機関室(エンジン)が車体前方に配置されていることで後部乗員室が広く確保されています。そこに搭乗している武装隊員が速やかに下車戦闘が開始できる様に、乗員室後方には両開きの扉(ハッチ)も設置されています。
また、乗員室には後部ハッチ以外にも天井部分の上部にも大型のハッチがあって、身を乗り出して周囲の監視や射撃をしたり車体上部に登ることもできる様にもなっています。
後部乗員室側面には計7基の銃眼(ガンポート)があり、車内から小銃を突き出して射撃が行える89式装甲戦闘車の特徴とも言えるものが取り付けられています。一見、装甲車内部から攻撃できるので便利に感じられますが、ガンポート部分は他の圧延鋼板部分に比べて弱く、弱点ともなりえる箇所でもあります。
世界的に見ても装甲を犠牲にしてまで設置する程の利点がないため、ガンポートのある装甲車両は現在はあまり見られません。
戦闘能力車体上部の砲塔には主砲として強力な90口径35mm機関砲が1門、主砲の同軸には74式車載7.62mm機関銃を装備。さらに普通科部隊の対戦車戦闘を考慮して砲塔両側には1基ずつ79式対舟艇対戦車誘導弾発射機(79重MAT)も備えていて、これにより遠距離から敵戦車への攻撃も可能となっています。
強力な武装と装甲を備えた戦闘車両ですが、基本として武装した隊員を作戦地域へ輸送するのが任務のため普通科部隊の装備として配備されています。
この様々な優れた性能を持つ装備品ですが、輸送車両としては調達コストが高く戦車に近い価格になってしまったため配備が限られ、冷戦終結や市街地戦闘などのテロリスト対応へと状況が移り変わり、計68両で生産が終わっています。
配備先は非常に限定的で、実戦部隊としては北部方面隊(北海道)の第7師団の一部だけで、あとは本州の御殿場にあるの富士教導団のみです。