91式携帯地対空誘導弾は、これまで陸上自衛隊で使用されてきたアメリカ製の「FIM-92 スティンガー」の後継として国産開発された個人携行式の地対空誘導弾です。
1987年から東芝と川崎重工それぞれにより開発が初められ、後に東芝が開発したものが採用されて配備されることになります。
日本版スティンガーと呼べる誘導弾(ミサイル)で、陸上自衛隊の公式の愛称として「ハンドアロー」という呼び名がつけられています。
スティンガーに比べて低空域における各種目標対処能力、正面要撃性、瞬間交戦性、対妨害性などに優れ、主に、低空域の高速機や攻撃ヘリコプターによる地上攻撃に対処します。操作も容易で整備箇所も少なくメンテナンス性に優れ、敵味方の識別能力を持っている。
誘導弾のシステム・誘導方式誘導弾のシステムとして誘導弾とそれを格納する発射機、外部電源、敵味方識別装置(IFF)により構成されスティンガとの互換性がある部分もあります。
チューブ状の発射筒に誘導弾(ミサイル)が格納され、目標捕捉から射撃まで1人で操作することがで、射撃時には発射機を肩に乗せる「肩撃ち方式」により使用します。射撃後には電源などの熱により発射筒が変形してしまうため、基本的には使い捨てになっています。
誘導方式として、スティンガにも採用されていた赤外線誘導(IRシーカー)と併用して、可視光(CCD)カメラによる画像認識・誘導が可能。これにより航空機が自衛のための誘導弾防御装置から発射されるフレアなど、ミサイルへの妨害行為にも強くなっています。
射撃方法射撃方法は、目標へ発射機を向けてスイッチを押すとセンサーが誘導をはじめ、射撃後に捕捉、追尾、撃破します。
【目標発見から撃破までの流れ】- 01.射撃手が飛翔する目標を選定
- 02.安全装置を解除
- 03.開放スイッチを押す(ミサイルへの電源供給やシーカー作動等)
- 04.射撃手が目標方向へ発射機を向ける
- 05.照準装置で目標を捕捉・追尾を続ける
- 06.シーカー(誘導装置)が目標を認識してロックオン
- 07.射撃開始可能状態になるとブザーが鳴る
- 08.トリガーを引いて誘導弾(ミサイル)を発射
- 09.ブースター点火で撃ち出される
- 10.飛翔後にブースター切り離し、ロケットモーター点火
- 11.IRシーカーにより目標の発する赤外線・記憶した画像イメージで自動追尾
- 12.目標に命中した衝撃で爆発・撃破(衝撃信管)
射撃方法としては、FIM-92 スティンガーもほとんど同じ使い方になっています。
91式携帯地対空誘導弾の運用運用として、個人携行できる軽量の小型ミサイルのため、ヘリコプターや低空・低速の航空機への対処しかできません。しかし広範囲に数名の隊員を配置して各所での防空能力の向上させる目的として活用されています。
この91式携帯地対空誘導弾を高機動車に計8発搭載して自走可能にした「93式近距離地対空誘導弾(93近SAM)」も開発され、高射機関砲L-90の後継として配備されています。
教育のために、91式携帯地対空誘導弾の目標追随・発射訓練ができるシミュレーター(操作訓練装置)も作られ、射撃操作訓練、目標捕捉・追随、誘導弾射撃などの訓練が行える様になっています。
2007年からは可視光画像誘導から赤外線画像誘導への変更と、誘導弾の推進をロケットモーターにした改良型を開発。低空目標や夜間戦闘能力を高めた「SAM-2改(B)」を調達しています。
陸上自衛隊では、戦車などの機甲科、榴弾砲などの特科部隊の対空自衛火器として配備され、航空自衛隊、海上自衛隊にも基地防空用として調達されています。
※IFF:Identification Friend or Foe(敵味方識別装置)