155mm榴弾砲FH70は、1970年代にイギリス、ドイツ(当時の西ドイツ)、イタリアの軍需・重工業メーカーによって共同開発された牽引式榴弾砲です。
「FH70」という名称は"Field Howitzer 1970(1970年代開発の野戦榴弾砲)"から付けられた英語略称です。
陸上自衛隊には1983年から155mm榴弾砲M1(58式155mm榴弾砲) 及び 105mm榴弾砲M2A1(58式105mm榴弾砲)の後継として配備が始められました。ちなみに"105mm榴弾砲M2A1"は現在でも北富士駐屯地の第1特科隊で、海外からの国賓来日の際の祝砲として使用されています。
陸上自衛隊に配備されているFH70は、10式戦車などの主砲製造も行っている日本製鋼所によりライセンス生産がされています。また搭載されている補助動力装置を富士重工業(現:SUBARU)が製造しています。SUBARUは自動車メーカーとしてのイメージが強いですが、他にも多用途ヘリUH-1J/Hや戦闘ヘリAH-64Dアパッチなどの装備品製造にも携わっています。
牽引式火砲として、基本はFH70専用の中砲牽引車によって牽引移動しますが、陣地からの離脱などの際には補助動力装置(APU)による短距離移動を行うことも可能です。
補助動力装置(APU)について
FH70の特徴として、牽引式火砲でありながら短距離移動が行える点があげられます。これは、"APU(Auxiliary Power Unit)"と呼ばれる補助動力によるもので、約16km/hの速度で自走可能な1800ccガソリンエンジンが搭載されています。
この補助動力装置による自走が行えることで、射撃後の陣地転換や迅速な離脱が可能です。敵に射撃位置を特定される前に移動できるので生存性の向上にも繋がっています。
APUはフォルクスワーゲン社により開発されましたが、陸上自衛隊に導入されているFH70にはSUBARU製の水冷4気筒ガソリンエンジンが搭載されています。
FH70の射撃方法
射撃方法として、まず鎖栓を開放して初弾となる砲弾と装薬を手動で装填します。その後、射撃が実施されると鎖栓が自動開放され、砲弾搭載部も同時に持ち上がります。
次弾からはすでに鎖栓が自動開放された状態なので、砲弾と装薬を押し込んで鎖栓を閉じるだけで射撃準備が整います。
この操作を繰り返すこと迅速な連続射撃が行える様になっています。これにより1分間に6発の連続射撃性能を実現しています。
FH70に限らず榴弾砲などの大型の火砲は、射撃時の反動を駐退機と呼ばれる装置で軽減しています。この駐退機だけでは反動を吸収しきれないので、火砲自体が後方へと押し返されてしまいます。そのため榴弾砲の脚(砲脚)の端先には"駐鋤(スペード)"と呼ばれる板が備わっています。これを地面に掘った溝に食い込ませて射撃時の反動を受け止めます。陸上自衛隊最大の火砲でもある"203mm自走榴弾砲"の後方にも大きなスペードが備わっています。
北海道以外の特科部隊に配備されていますが、配備から25年以上経過しているため旧式化が進んでいます。現在では公道移動もできる装輪式(タイヤタイプ)の"装輪式自走榴弾砲"の開発も進められています。