1993年から配備が始まった4輪駆動の中型トラックです。装備の位置づけとしては73式中型トラック(11/2tトラック)の後継として導入されましたが、その汎用性の高さから73式小型トラック(1/2tトラック)の役割を担うこともあります。
高機動車は一から新規開発された装備ではなく、トヨタの民生市販車"メガクルーザー"をベースに陸上自衛隊向けに製造が行われている車両です。そのためエンジンや内装品などに民生パーツを使いランニングコストを抑える工夫がされています。
主な用途として、武装した隊員や装備の輸送、火砲(120mm迫撃砲RT)の牽引など、普通科部隊の機動力向上を目的としています。同様の目的で運用されているアメリカ軍の兵員輸送車両"ハンビィー"にも似ているため"和製ハンヴィー"と呼ばれることもあります。ちなみにこのハンビィーは1985年からM151ジープに代わる輸送車両としてアメリカ陸軍に導入されたM998軽汎用車両のことで、高機動多用途装輪車両:HMMWV(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)の頭文字を取ってつけられた愛称です。
車体は自動車用鋼板とFRP(繊維強化プラスチック)から構成され、銃弾を防げる様な装甲は施されていません。鋼板製の屋根(天井)もありませんが通常は幌を取り付けて運用されています。素早く乗り降りさせたい演習や戦闘地域などでは、側面ドアを取り外して使用されています。
この屋根を設けていない仕様のため、大型輸送ヘリCH-47Jや航空自衛隊のC-130H輸送機などの機内へ搭載して空輸することも可能です。
高機動車の車体構造
車体構造として、車内には前方に操縦手(ドライバー)と助手の2名、後部には8名の計10名が乗車できます。この車体後部は荷物を載せるスペースになっていて、向かい合わせのベンチシートも備わっています。
輸送車両のため固定武装はありませんが、荷台のロールバー部分に5.56mm機関銃MINIMIの銃架が設置できます。荷台に乗車している隊員が射撃しながら走行することも可能です。
足回りにはランフラットタイヤを装備し、被弾して空気圧が低下した状態でもある程度走り続ける事ができます。またホイールには空気圧調整装置も備わり、駆動も常時4WDのため、荒れ地や舗装路など様々な地形にあわせた高い走破性能を持っています。他にも駆動輪のハブ部分に減速ギアを組み込んだハブ・リダクションが採用されているため、最低地上高も42cmと高く確保できています。
こんな2m以上の車体幅と5m近い全長がある車両ですが、旋回時には後輪も最大12℃の舵角で切れるため、最小回転半径が5.6mに抑えられています。市街地戦闘や都市部での災害派遣にも対応できる、狭い路地や入り組んだ道の多い日本の道路事情に適した作りになっています。
高機動車がPKOや国際支援活動などで海外に派遣される場合、搭乗員を守るため防弾ガラスや防弾板の増設、ワイヤーカッターの追加が行われます。この改良型は"高機動車Ⅱ型"として海外派遣任務の多い、中央即応連隊(宇都宮)や国際活動教育隊(駒門)を中心に配備されています。
この車両は非常に汎用性が高く、高機動車をベースとした車両も多く開発されています。新型の11/2救急車や93式近距離地対空誘導弾、中距離多目的誘導弾など様々な装備に活用されています。