中距離多目的誘導弾は、79式対舟艇対戦車誘導弾(79HATM・79重MAT)、87式対戦車誘導弾(87ATM・87中MAT)の後継として新中MAT(XATM-6)の名称で2004年から開発が始まりました。そして2009年に"中距離多目的誘導弾(MMPM:Middle rabge Multi Purpose Missile)"として調達が開始された多目的目標に対処可能な誘導弾です。
国内開発の装備ですが、○○式という名称になっていないのは、配備時に制式化ではなく部隊承認という形になっているためです(※2017年1月の「装備品等の部隊使用に関する訓令」の改定により制式化という名称は廃止されています)。
79式対舟艇対戦車誘導弾により対処していた中距離域での対舟艇(洋上の艦船への対応)や、戦車や装甲車などへの対装甲火力としての性能を受け継いでいます。そのため敵艦船、非装甲・装甲車両、人員(ゲリラ・コマンド)、構造物にいたるまで対応できる高い多目的対処性能を持っています。また、発射装置に搭載されたレーダーには捜索・評定機能が備わっているため、この車両のみで効率的に目標を探知することができます。
79式対舟艇対戦車誘導弾や87式対戦車誘導弾との大きな違いとして基本車載式で、車両に最大6発の誘導弾を格納したランチャーが搭載されています。同時に複数の目標に対して連続した射撃が可能になっています。
東富士演習場で実施される総合火力演習では、誘導弾の3連続射撃も披露されたこともあります。
これまでにも高機動車に多目的誘導弾を搭載した"96式多目的誘導弾システム"が配備されていましたが、車載発射機以外にも射撃統制装置や観測機材など全6両で1システムであったり、1システムのセットが約13億円と高額であったなどの理由により配備が進みませんでした。また、システムが6種類の車両で構成されているため、射撃には大規模な部隊展開が必要だったことも、配備が進まなかった理由の一つになっています。
これらの反省を踏まえて、中距離多目的誘導弾は発射機、評定装置、誘導装置を1両の高機動車に搭載して完結させています。製造コストの圧縮や小規模展開による高い機動性で目標に対処できる様になりました。
車体構造・誘導弾性能
車体構造として、高機動車の後部荷台部分に誘導弾(ミサイル)を6発収めた格納容器を搭載しています。誘導弾を収めた発射機部分は移動時に折り畳める昇降装置付き架台に載せられていて、この発射機上部には赤外線前方監視装置とミリ波レーダーも配置されています。
発射機や装置などを高機動車へコンパクトに収めたことで、作戦地域への迅速な展開が可能になっています。セミトレーラーなどの車両への搭載以外にも、大型輸送ヘリCH-47Jや航空自衛隊の輸送機による空輸も可能です。さらには専用プラットフォームを使用した空中投下もできるので、上陸作戦や離島などへの侵攻対処への展開も可能になっています。
中距離多目的誘導弾の配備により、新たな脅威や多様な事態に対して優れた機動性、即応性を持つことができました。
目標対処能力
目標対処能力として、いわゆる"撃ち放し射撃"が可能で、撃破対象へ向けて射撃後、慣性誘導により目標へ接近したのち、誘導弾(ミサイル)自体が赤外線画像誘導を起動して、あとは自動的に敵を補足して撃破します。
また、市街地戦闘などでピンポイントで目標をターゲットする場合など、レーザー・セミアクティブ・ホーミング方式により、赤外線レーザーを照射して評定・誘導することもできます。もしエンジン排気部などに赤外線探知偽装を施していたとしても、ミリ波レーダーとの併用によって対処可能です。
ネットワーク性能として、有線通信及び無線通信によって作戦部隊内でネットワークを構成。部隊の状況、目標情報などを一括に管理できます。また、他の部隊とネットワークを接続することで、遠距離や隠れた敵などの目標情報の共有も可能になっています。
79重MATや87中MATを装備していた普通科部隊の対戦車中隊や小隊を中心に、全国に配備が進められています。