機動戦闘車はこれまでの陸上自衛隊装備として新しいタイプの戦闘車両で、戦車のような主砲搭載の砲塔に装輪装甲車と同様の装輪(タイヤ)式の足回りになっています。
この装輪式の火力支援車両は2003年から10式戦車の開発技術を応用した"将来装輪戦闘車両"としてスタート。2007年頃から本格的な開発が始まりました。2013年後半には試作車両が報道公開され、2015年に開発が完了。2016年から調達を開始し、師団・旅団の即応機動連隊(旧普通科連隊)へ部隊配備が開始されました。
装備品の名称は16式機動戦闘車で、"MCV(Maneuver Combat Vehicle)"と略されて呼ばれます。
新防衛大網・中期防衛力整備計画により戦車や榴弾砲が配備縮小となりました。ここでの"統合機動防衛力"には機動戦闘車は欠かすことができません。
全国に舗装路が整備された日本では、装軌式(キャタピラ)車両をトレーラーに搭載して移動するよりも、火力戦闘が行える装輪車両が自走して長距離移動した方が即応性が高いです。また機動戦闘車は車両重量も抑えて開発されているので、航空自衛隊のC-2輸送機による空輸や民間フェリーを利用した機動展開も考慮されています。
車体構造
車体構造としては、足回りを96式装輪装甲車の様な8輪コンバットタイヤで車体を支え、最高約100km/hで舗装路を走行できます。
その車体上部には、52口径105mmライフル砲を装備した砲塔が搭載され、主砲同軸に74式車載7.62mm機関銃と自衛のための12.7mm重機関銃M2を車長室銃架に備えます。発煙弾発射機も砲塔側面に配置、これらの装備は第2世代戦車の74式戦車と同じです。
また、搭載されている105mmライフル砲は74式戦車と砲弾が共有できるので、運用面でも強みになっています。
機関として、水冷式エンジンを車体前部に備え、その後部には砲弾などを載せられる空間がありますが、89式装甲戦闘車の様に武装隊員が搭乗できる広さはありません。
防護性能として車体全体は防弾鋼板で覆われ、敵が個人携行する武装への防護力を持つとされています。10式戦車にもある追加装甲オプションは機動戦闘車にも採用されていて、大口径機関砲や個人携行ロケット弾にも対応していけると思われます。
装甲以外にも10式戦車に採用されている"レーザー検知センサー"も砲塔の四隅に設置され、敵が放つ誘導弾(ミサイル)や発射装置のレーザーを捉えて備えることができます。
戦闘・対処能力
装軌式(キャタピラ)ではない装輪式(タイヤ)の車体で大きな戦車砲を支えて安定した火力戦闘できるのか不安に感じられるかもしれません。ですが以前からこの様な戦闘車両はフランスやイタリアでは運用されています。
陸上自衛隊の機動戦闘車はどちらかというと、アメリカの"ストライカー旅団"で使われている105mm戦車砲を搭載したストライカーMGS(Mobile Gun System)に近いです。
上陸してきた敵部隊への第1次機動展開部隊として機動戦闘車が出動。中距離域での直接照準射撃によって装甲車両や軽戦車などを撃破するには105mmライフル砲でも十分に対抗できます。しかし敵主力戦車などが現れた場合などには火力不足となるため、それに対抗できる戦車は数を減らす事になっても日本が保有しなくなることは防衛力低下に繋がってしまいます。
試作車は、報道公開や降下訓練展示(習志野演習場)、自衛隊観閲式(朝霞演習場)などで一般公開はされています。最初に16式機動戦闘車が実働部隊として制式配備されるのは西部方面隊 第8師団(北熊本)・第14旅団です。
この機動戦闘車を運用する"即応機動連隊"が新編され、大分港から公道を利用して移動する機動展開訓練も行われました。