戦後にアメリカから供与された"203mm榴弾砲M2"の後継として導入された陸上自衛隊最大の自走式火砲です。1978年にアメリカで開発された"8インチ(203mm)自走榴弾砲M110A2"を、1983年から車体と砲架を国内でライセンス生産を行って配備しています。砲身のみアメリカからの有償援助(FMS:Foreign Military Sale)で取得しています。
原型は1961年にパシフィック・カー&ファウンドリー社が開発した25口径203mmのM110で、後に改良型の37口径203mmのM110A1を開発します。陸上自衛隊に導入されている自走砲はA1をさらに改良したM110のA2型になっています。
この陸上自衛隊に導入された203mm自走榴弾砲M110A2は、A1と同じ37口径203mmの砲身が使用されていますが、砲口に射撃時の反動を抑える制退器(マズルブレーキ)が取り付けられている点に違いがあります。
車体にはM113装甲兵員輸送車がベースに使われ、エンジンに155mm自走榴弾砲M109のものを搭載して開発コストを抑える工夫がされています。
M110の車体構造
M110は大型輸送機で空輸ができる大口径の自走火砲をコンセプトにしているため、車体が必要最小限の大きさに抑えて作られています。そのためアメリカ陸軍のM109A6パラディンなどの自走火砲とは異なり、装甲などはなく砲身もむき出しです。外装はありませんがオプションとして操作部に幌による屋根を取り付けることが可能です。
配置として車体前部左側にエンジン、中央に砲を搭載。車体後部には地面に突き立てて射撃時の反動を受け止める駐鋤(スペード)が取り付けられています。砲は水平状態から"-2~65度までの俯角(ふかく)"で稼働しますが、旋回は左右30度までに限定されています。
車体が最小限度の大きさのため、砲の操作に必要な人員を車体にすべて乗車させることができません。砲弾も2発しか車体に載せられないので、操作員と砲弾は87式砲側弾薬車に搭載して常に行動を共にします。
射撃方法
射撃方法として、給弾と装填は半自動化され、車体後部の送弾機から砲尾トレイに載せて人力で砲へと砲弾を送り込みます。短時間なら1分間に1.5発、持続射撃の場合は2分間で1発の射撃レートになっています。
給弾や装填が自動化されていることで、牽引式の203mm榴弾砲M2が操作員20名だったのに対してM110A2は13名へと省力化できています。牽引式よりも陣地進入から射撃展開、離脱までが迅速に行えるのも自走式の特徴です。
配備から30年以上が経過していることもあり装備自体の旧式化が目立ちます。噴進弾を使用した場合でも最大射程が約30kmで、これは最新の99式自走155mm自走榴弾砲の通常弾と同じ射程です。
これまでに91両が調達され、各方面隊の特科群や特科大隊などに配備されています。