これまでは侵入してくる航空機や誘導弾(ミサイル)を近距離で迎撃するために、機関砲弾で撃ち落とす35mm連装高射機関砲L-90が使用されてきました。このL-90の後継として1990年から開発が始まり、師団・旅団の最終防衛線となる地対空装備として1993年に制式化された国産の自走式地対空誘導弾です。
「93近SAM」又は「SAM-3」と略して呼ばれます。
ちなみにSAMは「Surface Air Missile:地対空」のことです。
中距離、短距離での迎撃が回避され、低空域まで侵入されてしまった目標を撃墜ための防空システムで、すでに配備されていた隊員携行式の携帯地対空誘導弾「91式携帯地対空誘導弾」を車載化しました。そのため、新たに専用誘導弾自体を開発する必要がなく、開発期間短縮やコストを抑えることができました。
牽引式だったL-90に比べ、車載化された自走式になったことで、作戦地域までの移動や射撃までの展開が迅速で、機動性能が非常に高くなっています。この軽車両での車載式誘導弾(ミサイル)システムは日本の自衛隊だけではなく、アメリカ軍でも同様にスティンガミサイルを兵員輸送車のハンビィーへ車載化したアベンジャー防空システムがあります。
車体構造車体構造として、トヨタ製の高機動車の後部荷台部分に、携帯式の地対空ミサイルである91式携帯地対空誘導弾を2発ずつ計4発収めた発射機コンテナを左右に2基搭載。この発射機コンテナは全周囲旋回式になっていて、360度あらゆる方向から侵入してくる目標への対処が可能です。
発射機コンテナ中央部には可視光カメラ、赤外線センサー、レーダー測距儀、敵味方識別装置(IFF)を内蔵した照準システムが装備されています。
本装備の目的として近距離での対処のため、射撃装置にはレーダー類は搭載されていませんが、師団対空情報処理システム(DADS)とリンクしているため、複数の目標への対処能力などの交戦能力は確保されています。
装備の運用・射撃方法として、車両に搭乗している班長と射手の2名で照準から射撃までを行い、射撃時には班長が車外で目視照準機搭載ヘルメットとコントローラーを装着して目標の照準を行います。この目視照準機搭載ヘルメットは誘導弾発射機と連動していて、ヘルメット装着者が向いた方向に発射機も同じ様に向きをかえて動作します。
その目標に対して、車内にある射撃統制コンソールによって、射手が発射機を指向して誘導弾を射撃します。この射撃統制コンソールは車外へ持ち出して使用する事もできます。
2008年までに113セットが調達され、各方面隊師団・旅団の高射特科大隊や中隊に配備されています。