サリンやVXガスなどの有毒・神経ガス、核兵器や原子炉事故によるフォールアウト(Fallout:放射性降下物)の状況下など、汚染された地域において活動するための装輪式(タイヤタイプ)装甲車です。
通常の装甲車とは異なり乗員を有毒物質や中性子線から防護できる装置を搭載しています。そのためテロ攻撃などによりNBC (核:N(Nuclear)・生物:B(Biological)・化学:C(Chemical)) 兵器が使用された放射線や有毒物質がある環境下でも検知、特定、偵察活動が行えます。
化学防護車は82式指揮通信車をベースに開発。製造は小松製作所によって行われています。見た目は82式指揮通信車にそっくりですが各種測定装置や検知器、空気浄化装置などを搭載しているため性能は別物です。
また化学防護車は緊急車両指定を受けている数少ない自衛隊装備です。有事や災害時には車体上部の赤色灯(パトランプ)を灯火させて一般道を緊急走行が可能で、これはNBC対処は通常の任務とはことなり緊急を要する状況が多く想定されるためです。
搭載装置
測定機器には、化学物質測定用のガス検知器(ガスサンプラー)、放射線測定用の地域用線量率計3型、携帯型化学物質識別装置などの各種センサー類を搭載。これらの機器により迅速かつ正確に検知・特定を行って汚染状況を把握することができます。
化学防護車の特徴にもなっているのが、車体後部右側に設置されているマニピュレーター(ロボットアーム)です。このリモートコントロール式のマニピュレーターにより、汚染された土壌や物質サンプルの採取が車内にいながら行えます。
化学防護車は核兵器が使用され放射性物質が飛散した汚染環境下以外にも、原発事故などで放射線が発せられる状況下での活動も想定されます。その場合には車内の隊員を被曝から防護するため、車体前部に原子力災害対処器材として放射線防護用の"中性子遮蔽板"をアタッチメントとして装着します。中性子遮蔽板によって原子炉の熱源検知など原子力災害特有の行動が可能。搭乗する隊員の被曝量を半減させることができます。これとあわせて乗車する隊員は鉛入りの放射線防護服も装着して任務にあたります。
これからのNBC対処
化学防護車は、大宮駐屯地の化学学校や中央特殊武器防護隊をはじめ、各師団の特殊武器防護隊や化学防護隊に配備されています。2009年までに47両が調達され、1999年以降からは風向センサーなどが改良されたタイプの「化学防護車(B)」に調達が切り替わりました。
世の中の状況が変化して核兵器や有毒化学物質による攻撃やテロ活動以外にも、炭疽菌などをミサイルや爆弾に搭載するなどして使用する「生物兵器」もいつ使われるかわかりません。しかし化学防護車では生物兵器に対する検知や特定が困難なため、生物偵察車が新たに配備されました。その後、合理化を図るため化学防護車と生物偵察車の性能を併せ持ち、核・生物・化学全てに単独で対処可能な「NBC偵察車」が配備されました。