防人の食事
~自衛隊の「食」について(装備・戦闘糧食等)~
ミリメシや海軍カレーなど、すでに自衛隊グルメを楽しんでいる方もいるでしょう。まだ食べたことがないという人も、ここでの"自衛隊の「食」"についてのお話で興味を持ってもらえればと思っています。自衛隊の駐屯地・基地での食事や戦闘糧食(レーション)、屋外で料理する調理機材装備、それを体験する方法など"防人の食事"として特集しています。
昔の防人も"腹が減っては戦はできぬ"と教訓となる言葉を残してくれています。
自衛隊ご飯"ミリメシ"
最近ではテレビや雑誌などでも"海上自衛隊のカレー特集"を目にする機会が増えました。あまり駐屯地や基地イベントに行くことがない方、行ったことがない人にも、自衛隊を注目してもらえるのは嬉しいことです。
そんな"ミリメシ"がブームになりつつある今、海上自衛隊にはカレー以外にも美味しいご飯があるということを特設サイト"艦めし"をオープンさせて公開しています。艦めし特設サイトにはカレーはもちろん、和食、洋食、中華、そしてスイーツまでもが掲載。秘伝のレシピを調理方法とあわせて紹介されています。だれでも試せるおいしい国家機密の一般公開です。
ブームに乗ってレシピを公開しているのは海上自衛隊だけではありません。航空自衛隊でも各基地オリジナルの"空自空上げ(唐揚げ)"というレシピサイトがスペシャルコンテンツとして特集されています。空上げイメージキャラクターの"からっと隊長"というキャラも作られるくらい力が入っています(隊長自身が揚がってるよ~)。
海上、航空となれば陸上自衛隊にも"陸自めし"みたいな特集サイトがないのか気になります。探してみると陸上自衛隊の公式サイト内に"駐屯地人気メニュー"という素晴らしいコーナーがありました。北部~西部方面隊の各駐屯地ごとに人気メニューをPDFで掲載し、管理栄養士のコメントと共にレシピが公開されています。
●海上自衛隊公式サイト
→「海上自衛隊レシピ"艦めし"」はこちら
●航空自衛隊公式サイト
→「スペシャルコンテンツ"空自空上げ"」はこちら
●陸上自衛隊公式サイト
→「駐屯地人気メニュー」はこちら
他にも、茨城県の"古河駐屯地"や神奈川県の"横浜駐屯地"など、各駐屯地の公式サイト独自で食堂メニューを公開してくれているところがあったりします。全国には陸上自衛隊の駐屯地が160以上もあるので、海自カレーの様にもっと陸自グルメが注目されることを期待しています。
防人の食事では、もっと陸上自衛隊の"駐屯地人気メニュー"に注目してもらいたいので、レシピを方面隊別にまとめた"噂の駐屯地食堂メニュー"を制作しました。レシピを見てみんなで駐屯地ご飯を作って見てほしいです。
自衛隊の食事
通常、自衛隊の隊員達は駐屯地や基地食堂で朝昼夕ご飯を食べています。1日に隊員が摂る食事のカロリーは約3000kcal以上とされています。さらに過酷な訓練や特殊任務に従事する隊員には"増加食"が支給され、必要カロリー分が補われます。
また、通常の食事が摂れない状況(演習や災害派遣時など)には、戦闘糧食(レーション)と呼ばれるパックや缶詰のレトルトご飯が支給され、必要カロリーと栄養を補給します。
これらの"自衛隊の食事"は「給食の実施に関する訓令」によって以下の様に定められています。
■基本食
駐屯地・基地食堂で食べられている日常生活に必要な食事で、1日3回(朝・昼・夕)支給されます。
【平常食】
駐屯地や基地の食堂で食べられているのが平常食になります。
【患者食】
病気などにより食堂食がとれない状態の患者向けの食事です。
【非常食】
防衛出動(待機を含む)、災害派遣、地震防災派遣、原子力災害派遣など、通常の食事(平常食、患者食)がとれない場合に非常用糧食が支給されます。
■増加食
特別な任務や訓練を行う場合に基本食では足りない分のカロリーを補給するために支給される食事。
そのカロリー消費が多い激務にあわせて増加食は、演習食、空挺食、潜水艦食、夜食に分けられています。
■加給食
主に航空機搭乗員に支給される食事。緊張状態が長く続く操縦、機上作業を行う乗員へ特別に支給されます。
この訓令にある非常食に分類されているのが、一般的に"ミリメシ"と呼ばれている"戦闘糧食(レーション)"になります。災害派遣時に隊員の方々はこの戦闘糧食(レーション)を食べて栄養補給をしています。ちなみに野外炊具などの自衛隊装備品で作られる炊き出しは、被災者への支援任務として調理されるため食べることはありません。また都道府県や市区町村との合同防災訓練等で調理されるカレーや豚汁なども自衛隊関係者は食べていません。
では、この非常食や炊き出しご飯を一般の人が体験することはできないのでしょうか?
炊き出しなどで活躍する自衛隊の調理機材装備もふくめて見ていきましょう。
自衛隊の調理機材装備
地震の多い日本では、いつ大規模震災が起きるかわかりません。最近では温暖化による世界的な異常気象で、日本でも豪雨災害が増えてきています。
そんな災害という非常事態には警察や消防、そして自衛隊にも災害派遣要請が出され被災地へと向かいます。被災地では救出救助活動とあわせて避難所などでは生活支援も行われます。そこで炊き出し調理される温かい食事は心身ともに疲弊した被災者を癒やしてくれます。
この様に自衛隊では演習時だけではなく災害派遣にも調理機材が活躍。陸海空自衛隊にはそれぞれの任務に合わせた装備が配備されています。
それではどんな調理機材があるのか見ていきましょう。
陸上自衛隊
災害派遣での炊き出しなら"野外炊具1号"というくらい必ず目にする装備です。自衛隊行事に行く機会が多い方やミリタリーマニアでなくても、テレビや雑誌等で見かけたことがあるかと思います。
かまど(窯、炊飯器)や皮むき器、発電機などの調理に必要な機材がトレーラーに搭載され、これをトラックで牽引して支援地域まで移動します。元々、演習場の宿営地で短時間で多くの隊員達へ食事を供給できるスペック(45分以内に約200人分)があるため、被災地でもこの機材性能が活かされた援が行えています。
野外炊具1号は配備が始まってからも改良が続けられています。2010年頃から運用されている「1号(22改)」では操作性の向上とあわせて、かまど部分を分離して小隊向けに使用できる様にもなっています。ちなみにこの分離ユニットが"野外炊具2号"です。
航空自衛隊
航空自衛隊にも"炊事車"という移動調理機材が配備されています。陸上自衛隊の野外炊具1号(改)とは異なり、7tトラックに調理機器を搭載した自走式になっています。
このトラックの荷台部分には、炊飯や汁物が作れるかまど、調理台、調理機材などが設置され、野外炊具1号(改)同様に約200人分の食事を同時調理する性能を持っています。
一見、自走できる炊事車の方がコンパクトにまとめられていて運用しやすそうに感じますが、調理時は荷台という限られたスペースで作業を行うことになります。材料の受け渡しや配膳などがどこからでも行える野外炊具1号の方が作業効率は良いのかもしれません。
海上自衛隊
海上自衛隊で基地食堂以外での食事といえば護衛艦や潜水艦などの艦艇内での"艦めし"です。洋上警戒などで長く艦艇内生活が続くと、陸上勤務以上に食事は重要な楽しみの一つになります。
海上自衛隊は"金曜日がカレーの日"というのも、洋上で曜日の感覚を忘れない様にする所から始まっています。ちなみに本場のインドカレーはシャバシャバが基本ですが、日本に広まったカレーはイギリス式の小麦粉の入ったドロッとカレーです。これも始まりはイギリス海軍が船上で揺れてもカレーがこぼれない様にする工夫からだとされています。
なんかカレー大好きの話になってしまいましたね。
警察・消防等
防人の食事ということで警察や消防などの防災関連機関が持っている装備についても少し触れてみます。
警視庁には"キッチンカー"と呼ばれるマイクロバスに調理機材を搭載した車両が運用されています。県警でも同様のキッチンカーを持っている所もあります。このキッチンカーは自衛隊の装備とは違い、最初から災害派遣での調理を目的として配備されています。
設備としては、炊飯器、コンロ、冷蔵庫、発電機等が車内に備わり、出入り口には天幕を展開することもできます。小さなラーメン屋さんの厨房くらいのスペースがあるので意外と広さはあります。
消防庁や各県消防局には今のところキッチンカーの様な装備はない様ですが、コンロや湯沸かし器を備えた車両はあります。"後方支援車"という車両に小さな台所が付いていますが、あくまでも災害現場で長期間救助活動を行う隊員の生活支援が目的です。また後方支援車と展開場所の異なる"指揮車"にも調理スペース等が備わっています。
今後は、自衛隊、警察、消防だけではなく、国土交通省や民間団体・組織にも災害支援向けの調理機材や装備が増えていくかもしれません。災害が多い国に住んでいるという自覚を持って、個人でも日頃から防災意識を高める努力をしていきましょう。
「給養員」という仕事
陸上自衛隊では駐屯地食堂で食べられている基本食の調理は、主に業務隊の陸曹が担当しています。また民間企業や業者などに委託するなどで食生活を支えていたりします。実際にマイナビなどの求人サイトで駐屯地食堂の募集を見ることができます。
では、"自衛隊の料理人"の様な調理を専門とする職種がないのかというとそんなことはありません。
海上自衛隊と航空自衛隊には調理専門の職種(特技)「給養員」というお仕事があります。
海上自衛隊の場合には、京都府 舞鶴市にある、経理、補給、給養、監理などを教育する"海上自衛隊 第4術科学校"で。航空自衛隊では、福岡県 芦屋町所在する、補給、調達、給養、会計などを教育訓練を行う"航空自衛隊 芦屋基地 第3術科学校"で給養課程を学びます。
給養員としての調理は家庭での料理や飲食店のそれとは大きく異なり、一度の調理で数百人分の食事を作らなくてはなりません。航空自衛隊 入間基地などの大きな基地になると、数千人分を大きな鍋で調理することにもなります。その分、一般では経験できない調理スキルやノウハウなども身につきます。
また調理担当として働くことにより調理師の受験資格も得られたり、栄養士を目指すことだってできます。
※調理師の受験資格は、"飲食店などで2年以上の調理業務の経験"が必要となります。
以前に、幹部自衛官の方に別件でお話を聞いた際に、自衛隊は職種の希望を出し続ければ必ず道を指し示してくれる組織だと言われていました。
"給養員"という裏方の仕事から国防に携わってみたい若い方は、自衛隊を職業の選択肢に考えてみるのも良いのではないでしょうか。
給養員など、その他の自衛隊職種や仕事について知りたい方は、お近くの"自衛隊地方協力本部"でお話を聞いてみてください。どなたでも気軽に行ける街の自衛隊、それが地方協力本部の募集案内所や地域事務所です。
まずは「自衛官募集ホームページ」を見てみるだけでも参考になるかと思います。
●静岡地方協力本部公式YouTubeチャンネル
→自衛隊の職種紹介:航空自衛隊(給養)
●海上自衛隊公式サイト
→動画で見る 海上自衛隊【給養】
体験できる自衛隊の食事
自衛隊の後援団体や基地・駐屯地モニターの研修では、隊員食堂等での食事が体験できたりします。また"自衛隊地方協力本部"の募集広報での体験航海や基地見学などでも経験できる機会はあります。でも若い方が一人で行ってみるにはなかなかハードルが高いですよね。
そこで、まずは個人でも気軽に自衛隊の食事が体験できるツアーやイベントなどを紹介してみたいと思います。
※現在は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、体験ツアーやイベントは中止となっていますのでご了承ください。
高射学校見学ツアー
千葉県 千葉市にある陸上自衛隊 下志津駐屯地。航空機や誘導弾(ミサイル)を迎え撃つ"迎撃"装備や対空戦闘の教育を行っている"高射学校"のある駐屯地です。
ここでは、毎月第2火曜日を基準として個人で参加・申し込みができるツアーを開催しています。基本的に団体での申し込みは受け付けていないので、一人で気兼ねなく行けるオススメの見学会です。
申し込みは駐屯地広報へ直接電話でのみ受け付けています。自衛隊に電話するなんて緊張するかと思いますが、やさしく対応してくれますので安心してください。
ツアー当日は、まず受け付けで"393円(2019年度)"の昼食代(参加費)を納入します。その後、駐屯地概要説明のブリーフィング、施設・装備見学、資料館見学、音楽演奏など、食堂での体験喫食以外にもさまざまな体験ができます。
横浜駐屯地体験喫食
神奈川県 横浜市に所在する陸上自衛隊 横浜駐屯地。保土ヶ谷の住宅街、勾配のきつい坂の上にある中央輸送隊本部がある駐屯地です。
住宅地の中に立地していることもあり、夏に開催される"駐屯地納涼祭"は地元自治会と協力した地域密着の交流イベントになっています。
記念行事も一般開放は行われないため、一般の方が横浜駐屯地へ入れるのは基本的に納涼祭か体験喫食しかありません。
→ 「横浜駐屯地HP」はこちら
りっくんランドイベント
陸上自衛隊好きや朝霞市や和光市周辺にお住まいの方には馴染みの深い陸上自衛隊 朝霞駐屯地。この駐屯地に隣接している自衛隊を"見て、触れて、体感"できるのが陸上自衛隊の広報・PRセンター"りっくんランド"です。
りっくんランドには戦闘糧食のサンプルが常設展示されていたり、ミリメシを売店で買えたりもします。さらにサマーフェアやこどもの日フェアなどの季節イベントでは体験喫食も行われ、"野外炊具"を屋外に展開して調理の様子も見学することができます。
このイベントでの炊き出し料理は材料費程度ですが有料(300円程度)となっています。メニューとしては自衛隊カレーが食べられたり、夏場には隊員特製かき氷なども体験できたりします。
その他にも、りっくんランド企画の戦車搭乗体験ツアーや習志野駐屯地見学ツアーなどの申し込み必要イベントでも、駐屯地の食事を味わえるチャンスがあります。
こちらは申し込み後、抽選となりますので、まずは季節イベント開催時に足を運んで自衛隊カレーを堪能してみてはいかがでしょうか。
防災訓練
こちらは体験イベントではありませんが、自衛隊が参加する県や市区町村の防災訓練でも"野外炊具"による自衛隊食を体験できることがります。
自衛隊は防災訓練の救出救助訓練に参加する以外にも、"炊き出し訓練"として師団の後方支援連隊補給隊などが調理を実施する場合があります。この際、ボーイスカウトや自治会と協力して、自衛隊が調理したカレーや豚汁を市民が配布するなど連携訓練として行われます。
自治体の防災関連費から材料の費用が出るので無料で食べられますが、"タダ飯"だと思わずに防災の意識向上と自助・公助・共助を考えて参加してみてください。この防災訓練でも隊員の方々が炊き出し調理を行う様子が見られますので是非ご見学ください。
家でも食べられる自衛隊ごはん
演習や災害派遣時に隊員達が食べている非常用糧食。調達上は非常用糧食の名称になっていますが、これが缶詰やレトルトパウチの食事"戦闘糧食"です。
この戦闘糧食には「Ⅰ型」と「Ⅱ型」があって、自衛隊創設期から食べられているOD色の缶詰が「Ⅰ型」、後に登場したレトルトパックタイプが「Ⅱ型」になります。
"戦闘糧食Ⅰ型"には、約2合もの米が入っているご飯缶(通称:カンメシ)と、おかずの入った缶詰(通称:オカズ缶)があり、ご飯缶は白飯以外にも、五目飯や鶏飯など、それだけで美味しい味付きご飯も用意されています。
Ⅰ型に続いて採用されたレトルトパウチタイプの"戦闘糧食Ⅱ型(通称:パックメシ)"。食品保存技術の向上や利便性の良さから、現在の主流になっています。米はサトウのごはんの様に樹脂トレーに収まり、おかずは一般的なレトルトカレー同様の袋状のパックに入った作りになっています。
缶詰タイプの場合、缶切りやナイフ等で開ける必要(耐久性を考慮してプルタブは付いていません)があり、食事後も空の缶がかさばってしまうなど、持ち運ぶ食品容器として問題がありました。
これに対してⅡ型のレトルトパウチは、湯煎時間も約25分(缶詰)から約10分(レトルト)に短縮。食べたあとのパックもまとめれば戦闘服のポケットに入れておける様になりました。
実は、このレトルトパウチタイプの"戦闘糧食Ⅱ型"は一般にも販売されています。なので家でも自衛隊ご飯を気軽に味わうことができます。パッケージは一般販売向けに変更されていますが、中身は自衛隊納入のものと同じです。保存期間も長いので災害時のことを考えて、防災非常食として買って備蓄しておけます。
カレー以外にも幅広いメニューがラインナップされていますので、ご自宅で"自衛隊のご飯"を試してみてはいかがでしょうか。
航空祭や記念行事などに出展している自衛隊応援クラブDSCのブース。そこで販売されている戦闘糧食(レーション)は、自衛隊で採用されているものと同じです。この戦闘糧食が"自衛隊グッズ専門ショップ「補給処」"でもオンラインで購入できます。自宅で自衛隊ご飯を食べてみたい方は是非お試しください。 "自衛隊グッズ専門ショップ「補給処」"では自衛隊に採用されているものと同じ戦闘糧食(レーション)がオンライン購入できます。自宅で自衛隊ご飯を食べてみたい方は是非お試しください。